オウム真理教事件の死刑囚、残り6人の死刑が執行されました。
オウム真理教事件で死刑が確定したのは13人。
そのうち麻原彰晃ら7人は、2018年7月6日に死刑が執行されました。
そして今回は残り6人の死刑囚。
予想以上に早かった、というのが感想ですが、それ以上に強いのが「ああ、やっと終わった」といった気持ちではないでしょうか。
でも、オウム真理教についての記事を読むと、「終わった」というよりも、「ひとつの区切りなんだな」というのが現状のようです。
死刑執行は終わっても、事件の爪痕は終わっていない、ということ。
オウム死刑囚残り6人の名前
2018年7月26日、法務省は死刑執行したと発表しました。
【法相 1カ月2度の死刑執行は初】オウム真理教元幹部ら6人の死刑執行を受け、記者会見した上川法相は1カ月に2度の執行が、公表するようになった1998年11月以降で初めてと明かした。執行命令書は24日に署名。 https://t.co/zzqnwkUr6E
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) 2018年7月26日
「1ヶ月で2回の死刑執行は異例」などと報道している記事もありますが、この事件そのものが異例。
死刑囚を13人出すような事件ですよ?!
そうそう起きるものではありません。
死刑執行も、法を遵守してのことなので何も問題はなく、上川陽子法相は、よく決断されたと思います。
さて、今回死刑執行された死刑囚は以下の6人です。
死刑囚
カッコ内は年齢 |
主な罪状 | 死刑執行場所 |
---|---|---|
宮前一明(旧姓岡崎、57) | 自分の部下だった男性信者を殺害(男性信者殺害事件)。坂本堤弁護士一家殺害事件では、殺人に関わったほか、一家の遺体を別々の場所に遺棄する。 | 名古屋拘置所 |
横山真人(54) | 地下鉄サリン事件の実行犯の一人。自分がサリンを散布した車両では死者が出なかったものの、事件に関与した一人として裁かれた。 | 名古屋拘置所 |
端本悟(51) | 得意な空手の腕を買われ、坂本弁護士一家殺害事件と松本サリン事件の実行メンバーに抜擢される。
上から命じられるままに実行したとは認められたものの、事件に直接関与した事実は免れず、死刑判決を受ける。 |
東京拘置所 |
小池泰男(旧姓林、60) | 地下鉄サリン事件と松本サリン事件に関与。地下鉄サリン事件では、サリンが入った袋をメンバーの中でも最多の3袋持ち散布。
死者8名を出す。事件後しばらく逃亡するが、1996年12月3日に沖縄県で逮捕される。 |
福岡拘置所 |
豊田亨(50) | オーストラリアに「豊田研究所」を持つほど、教団の核開発に大きく関わっていた。
地下鉄サリン事件ほか、東京都庁小包爆弾事件、新宿駅青酸ガス事件、自動小銃密造事件と、計4つの事件で起訴された。 |
東京拘置所 |
広瀬健一(54) | 地下鉄サリン事件の実行犯で、御茶ノ水駅でサリンを散布する。
地下鉄サリン事件と自動小銃密造事件で起訴され、2000年の第一審と2004年の控訴審ともに死刑判決を受ける。 |
東京拘置所 |
区切りはついたけど問題はまだくすぶっている
今回の死刑執行で、オウム真理教事件で死刑判決を受けた被告全員の死刑が執行されたことになります。
オウム真理教による事件が発生したのは1990年代。
20年以上の年月を経てようやく、といった気持ちがこみ上げてくるのは自然ですよね。
ですが、死刑執行で事件が「終わった」とは言い切れないのです。
後遺症に悩む被害者
「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱさん(71)は、死刑囚13人の死刑執行後の記者会見で「13人の死刑が執行されても、被害はまだ続いている」と訴えました。
「13人の死刑が執行されても被害はまだ続いている」
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2018年7月26日
→オウム真理教元幹部の死刑囚全員の執行が終わったことを受け、「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱさんが会見
→「後遺症を抱えている人、事件に触れられない遺族もいる。すごくつらい」https://t.co/MGXGAYMVPp pic.twitter.com/pmWIdHr3ZY
手がしびれる、極度の疲労感に悩まされるなど、事件の後遺症に苦しんでいる被害者は今もいるのです。
後遺症は身体的なものばかりではありません。
地下鉄サリン事件のある被害者は、事件後「誰かにつけられているのでは」という妄想がひどくなり、それは精神科に入院するほどまでに深刻になったそうです。
また、被害者支援の遅れも目立っています。
被害者が届け出た損害賠償責権はおよそ38億2200万円ですが、教団側から回収できたのは4割程度。
教団の破産手続きは、およそ22億7200万円の債権を残して、20年に終結しています。
その後「オウム真理教犯罪被害者支援機構」は、「アレフ」と「ひかりの輪」に対して交渉を続けているということですが、現在も完結していません。
後遺症に苦しむ被害者からすれば、オウムの事件は死刑執行が完了しようとも終わったわけではありません。
洗脳が完全に解けるのは難しい
広瀬死刑囚は、完全にマインドコントロールされていたと少しお話しましたが、彼は、ヴァジラヤーナの信念(殺人や盗みを正当化する教え)を麻原から吹き込まれ、これを完全に正しいと信じ込みました。
この状態では自分のアイデンティティは姿を消し、人の命を奪うことも躊躇せずできるようになります。
麻原に自動小銃の製造を命じられた時、広瀬死刑囚は、
「違法行為という認識はあったが、悪いことをするという感覚はなかった。そういうことにこだわることは、人類救済の気持ちが足りないのだと罪悪感を感じた」(引用)
と思ったそうです。
普通の善悪の判断ができなくなる。
洗脳は怖いです!
こんなふうに強力に洗脳されてしまってるわけですから、それが解けるというのはかなり難しいと考えられますよね。
オウム信者の脱洗脳にかかわってきた、脳機能学者・苫米地英人氏は、洗脳が完全に解ける難しさを指摘しています。
「元幹部らオウム信者の多くは麻原を否定しても、ヴァジラヤーナを全く否定していない。やはり、オウムに対し、破壊活動防止法で組織を壊滅させるべきだったと思います」(引用)
殺人を正当化するために、信者たちがしがみついていた、ヴァジラヤーナは、信者たちの心の中に予想以上に深く浸透しているようです。
また、苫米氏は、サリン事件が発生した背景について
「サリン事件は、オウムにとって“ヴァジラヤーナ”という教義に基づき、教えを実践したまでのこと。麻原は最終解脱者で、他人の魂を解脱させて転生することができ、人々はカルマ(悪業)を積んでいるから、苦しめば苦しむほど、より良い転生ができる。つまり、サリンをまいて苦しめて殺すことが、人のためという危険な教義だったのです」(引用)
と、解釈していますが、聞いただけでも恐ろしい思想です。
この考えが今も続いているとしたら、今後また同じような悲劇が起きないとも限りませんよね。
信者を完全に洗脳から解くには、専門的な技術が必須になるということですが、死刑執行が終わったからと言って事件は終わり、ということではないんですね、ホント。
入信し続ける信者
あれだけひどい事件を起こしていても、教団が存在している事態びっくりですが、そこに入信する人も未だにいるというところに驚きを隠せません。
オウム真理教は現在「アレフ」と「ひかりの輪」に分裂していますが、公安調査庁によりますと、2つの教団合わせて1650人(2017年)の信者がいるということです。
全盛期よりも数を減らしているものの、年間およそ100人の人がアレフに入信しているとか。
さらに、両派の資産額の合計は、2000年から2017年の間に、17倍以上も増加しているというのです。
アレフもひかりの輪も、未だに麻原を尊師と崇めています。
オウム真理教を支えたヴァジラヤーナの教えもなくなったとは考えられません。
信者にしろ、資産にしろ、減るどころか増えているところが怖いです。
事件の真相は闇へ
なぜ麻原はこんな事件を起こしたのか。
なぜ、起きなければならなかったのか。
麻原は、生前事件の核心を語らなかったので、真相は闇のまま。
つまり、「なぜ?」という問は永遠に続くことを意味しています。
そして、真相が明らかにならなければ、いろんなふうに解釈もされてしまいますよね。
事件を理解したり、解明につながるのであればいいですが、たとえば歪んだ解釈が、麻原を神格化するに十分なものだったとしたらどうでしょうか。
考えすぎかもしれないけれど、真相を解明するために、今後もいろんな議論が続いていくことは想像できますね。
おわりに
オウム真理教事件の死刑囚13人の死刑執行が済みましたが、「やっとか」という思いの一方で、何かすっきりしない部分もあります。
それはやっぱり、事件の爪痕が残っているからだと思います。
後遺症に苦しむ被害者や、遅々として進まない被害者支援
それから、今も活動を続けているオウム真理教。
洗脳が解かれないまま社会復帰している信者もいるわけですし、なかなか「終わった」という気持ちにはなれませんね。
それでも、死刑執行でひとつの区切りはついたと思います。
「平成史上最悪の凶悪事件が、平成でピリオドを打った」と言われますが、ある意味それは正しいと思います。
刑事上は終わった、それだけ、といったところでしょうか。
本当に終わった、と思える日が来るといいなと思います。