ジョアンナ・デネヒー

 

ジョアンナ・デネヒー

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ジョアンナ・デネヒー(1982~)は、5人の男性を死傷させた英国の女シリアルキラー。彼女のニュースを聞いた時、アイリーン・ウォーノス(1956~2002)以上の戦慄を覚えました。

 

どちらも男性を残忍に殺害したシリアルキラーですが、ウォーノスは「怒り」や「憎悪」が根底にあります。しかし、デネヒーの場合、怒りに任せて被害者を殺害すると言うよりも、「快楽」が強く出ています。

 

なぜデネヒーが快楽殺人者だと思うかと言うと、自分が楽しむために被害者をナイフで刺し、仲間を犯罪に巻き込んで被害者を探させたり、遺体を遺棄したりしたからです。中には、女性用のドレスを着せられ、あらぬ姿で遺棄された被害者もいました。

 

 

専門家も理解しにくい面があると言うように、デネヒーがどんなシリアルキラーか、なぜ事件を起こしたのかと説明することは、そう簡単ではありません。しかし、「快楽」という視点から、その一部を描いてみたいと思います。

 

 

今回参考にした動画(英語)

Born to Kill - Joanna Dennehy

 

 

ジョアンナ・デネヒーの生い立ちと事件の概要

ジョアンナは1982年、ハートフォードシャーのセント・オールバンズで生まれる。裕福な家庭に生まれたジョアンナは、父親と母親、そして妹と何不自由なく暮らしていた。子供の頃のジョアンナは愛くるしく、学校の成績も良かった。

 

しかし、思春期に入ると、ジョアンナの素行は一気に悪くなる。酒を飲み始め、試験の日に、酔った状態で学校に行ったこともあった。そのうちドラッグにも手を出すようになり、15歳の時に家を出てしまう(ボーイフレンドの話では、母親に家を追い出されたとのこと)。

 

住む家もなく、ボーイフレンドと共に盗みで食いつないでいたジョアンナは、やがて定住の場所を得て、17歳の時に出産。妊娠中は、酒をすっぱりとやめていたジョアンナだったが、娘が生まれると、育児そっちのけで酒と麻薬に再び溺れた。自傷行為をするようになったのも、この頃だった。

 

その後ジョアンナとボーイフレンドの間にもうひとり娘が生まれるが、ジョアンナはますます酒と麻薬に依存するようになる。酔うと凶暴になり、しばしば夫に対して暴力を振るった。凶暴化するジョアンナに、子供の身の危険を感じた夫は、ある日娘たちを連れて家を出ていってしまった。

 

軽犯罪で刑務所に入っていたジョアンナは、2010年、ピーターバラに移り住む。大家のケヴィン・リーは、デネヒーのように、出所後住む場所がない人たちのために、低家賃で住む場所を提供していた。

 

ジョアンナとケビンはほどなくして肉体関係を持つようになり、ケビンはジョアンナに車などを買い与えた。
2013年3月29日、ジョアンナはケビンを「アブノーマルなセックスをしよう」と誘い、刺殺する。ジョアンナは、身長7フィート(約2.13メートル)の大男ゲイリー・ストレッチとともに、ケビンの遺体を、側溝に遺棄した。ケビンは女性用のドレスを身に着け、尻を突き出した状態で発見された。

 

ケビン殺害後、ジョアンナとゲイリーは、ピーターバラを離れ、ヘリフォードに向かった。4月2日、ヘリフォードで被害者を物色し、ジョアンナは犬の散歩をしていた、60代と50代の男性を、相次いでメッタ刺しにする(どちらの被害者も一命をとりとめた)。

 

同日、ジョアンナとゲイリーは、事件発生の通報を受けジョアンナの行方を追っていた警察に逮捕された。その後ジョアンナの同居人で行方不明だった、ジョン・チャップマンが、遺体で発見される。ジョンが発見された場所には、もう一体の遺体が遺棄されていた。遺体はポーランド国籍のルーカス・スラボウスキーで、ジョアンナに「セックスしよう」と誘われ、ジョアンナが住んでいるピーターバラを訪れていた。ルーカスは、ケビンとジョンよりも10日ほど前に殺害されていた。

 

2013年11月、デネヒーは3件の殺人事件と、2件の殺人未遂事件で起訴され、起訴事実をあっさりと認めた。そして2014年2月、仮釈放なしの終身刑を受ける。共犯だったストレッチは、懲役19年の刑が確定した。

 

ジョアンナ・デネヒーは稀に見る女シリアルキラー

デネヒーの犯行は、猟奇的で快楽的、自分の意のままになる男性をあざ笑うかのような、侮辱的な態度も見られます。なぜこれほどまでに胸糞悪い行為ができるのか、デネヒーが持つ気質として、以下の3つが挙げられます:

 

  1. 普通の人が抱くような感情を持たない(感情の欠落)
  2. 人を殺害することに大きな喜びを感じる
  3. 人を操ることに長けている

 

デネヒーはしばしば精神障害と診断されていますが、善悪の見境がつかなくなるほど精神的に混乱していたわけではありません。なぜなら、関わる人をコントロールし、自分の目的(快楽殺人)を達成する面も見られるからです。

 

それではいった彼女はどんな気質の持ち主なのか、デネヒーの具体的な行動を挙げながら、説明します。

 

デネヒーは感情が欠落している

デネヒーが冷酷なシリアルキラーといわれる一因に、感情が欠落している事が挙げられます。

 

なぜなら、「感情が欠落しているのでは?」と思われる行動がいくつか見られるからです。

 

デネヒーは、ティーンの頃から自傷行為を繰り返してきました。

 

方心理学者のルイス・B・シュレシンジャー(Louis B. Schlesinger)博士は、デネヒーの自傷行為は、「感情を得るため」としています。

 

シュレシンジャー博士
ルイス・B・シュレシンジャー博士
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シュレジンジャー博士によりますと、デネヒーは境界パーソナリティの気質が見られ、多くの境界パーソナリティの患者は、「何も感じない、そのため自分を傷つけ、"痛み"から感情を得ようと訴える」傾向があるということです。

 

デネヒーが逮捕された時、特別抵抗することなく、おとなしく逮捕されました。多くの人々を混乱させたのが、逮捕直後のデネヒーの言動。連行された警察官にジョークを飛ばしたり、笑顔で話しかけたりする様子からは、直前まで人間をメッタ刺ししたとはとても考えられません。事件を担当したベテランの刑事たちでさえも、デネヒーの態度に面食らっていました。

 

リーの失踪以降、デネヒーの事件を担当したマーティン・ブルニング(Martin Brunning)警部(重大犯罪課)は、デネヒーの行動から、「デネヒーの罪に対する意識は皆無だ」と指摘しました。

 

ブルニング警部
マーティン・ブルニング警部
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普通の人のように、感情が豊かであれば、ここまで残酷な行為はできませんよね。それができてしまうということは、やはり感情が乏しい、いや、デネヒーは感情が欠落していると言ったほうが良いでしょう。

 

デネヒーは殺人に快楽を見出した

デネヒーが殺人に快楽を見出したことは、容易に想像できます。「殺人」という一線を越えてから日を空けずに被害者を狙い、まるで「デネヒー・ショー」を展開しているようでした。

 

デネヒーは1人目の被害者を殺害した10日後、同じ日に2人の男性を殺害しています。さらに「ボニーとクライドのように9人の男を殺す」と言って、スプリーにエスカレートしていきました。犬の散歩をしていた男性を刺し、車に戻ってきたデネヒーは、ゲイリーの頬にキスをすると、「良かったわ、すごく良かった」と言い放ったそうです。

 

逮捕された後、デネヒーは殺人の動機について「楽しかったから」と答えたように、デネヒーの犯罪行為は、「快楽」がモチベーションだったことは、まず間違いないでしょう。

 

血の味を一度味わったらクセになり、もう一度その快感を味わおうと次から次へとターゲットに襲いかかる。もし、デネヒーが逃げ続けていたら、被害者はもっと増えたと考えられます。

 

 

デネヒーは人を操ることに長けている

デネヒーは人、特に男性を操ることに対して、高いスキルを持っていました。デネヒーは、被害者と共犯者、そしてシチュエーションをコントロールすることで、「快楽殺人」という目的を達成したのです。

 

2番目の被害者であるチャップマンを除き、殺害されたスラボウスキーとリーは、セックスをちらつかされ、デネヒーの望むように行動していました。犯行の最初から最後までデネヒーに協力したストレッチも、デネヒーに好意を寄せていたと言います。

 

デネヒーの元夫や、ストレッチと顔見知りだという縁から事件に巻き込まれたマーク・ロイドという男性が証言しているように、デネヒーは時にナイフをちらつかせ、暴力で相手を支配しようとする傾向もありました。

 

サドマゾの世界では、男性を従える支配的な女性のことを「ミストレス(Dominatrix)」と呼びます。デネヒーは、支配的でサディスティックな気質から、しばしばミストレスと指摘されていますが、厳密に言えば異なります。

 

前出のシュレシンジャー博士は、実際のミストレスにインタビューをし、「ミストレスたちは、常に自分自身をコントロール下に置き、その範囲でプレイに徹する。この点でデネヒーはミストレスとは異なる。デネヒーは男性を操るためにセックスを利用しているだけ。デネヒーは、ミストレスではなく殺人者」と結論づけました。

 

つまり、デネヒーが支配的なのは、相手がどう思おうと関係なく、自分の欲望を満たすため(ここでは快楽殺人)、ということになりますね。

 

まとめ:ジョアンナ・デネヒーのケースはレアなままであって欲しい

 

デネヒーの何が恐ろしいかと言うと、人を巧みに操り、おもちゃのように命を奪い、それについて「何も感じない」ということです。

 

また、そうした犯罪行為は、善悪の見境がつかないほど精神が混濁しているからではなく、緻密な計算に基づいているという点。
人間も環境も、すべて自分の目標を達成させるための道具としてしか捉えていないようです。

 

支配的で暴力的、さらに破壊的な面を持ち合わせているデネヒーは、男シリアルキラーを彷彿とさせます。これが、稀代の女シリアルキラーと呼ばれる所以かもしれません。

 

デネヒーのようなシリアルキラーは、レアなケースと言われていますが、今後もレアのままであって欲しいですし、「第2のデネヒー」は出て欲しくないと思います。